付録 『今明かす』
以前からどうしても言っておきたいことがあった。私の名誉回復のためにも言っておかねばなるまい。そのためにはこの場はまさにうってつけの場であるのでこの場において、はたして何人が読んでくれるのかしらんが、多少なりとも誤解を解いておこうと思う。
その事とは、僕の「山岳部に女の子はいらない」という発言についてである。この発言に関していまさら取り下げるつもりはないし、いまだにその考え自体は変わらないでいる。いやむしろ、あのときオレは正しいことをしたなぁと、確信が強まりつつ今日に至っている、と言ってもいい。僕はこの発言により当時部員たちから「硬派だ!硬派だ」と罵声を浴びせられ、Y氏にはいまだに何かにつけて引き合いに出され、唯一女子部員であったKさんには石で頭をかち割られそうになったりした。
それはあんまりである、僕の気持ちも知らないで。
なるほど字面だけ見れば、ただの女性蔑視のようにも取れるし、「また〜そんなこと言ってからに〜」とか、「えーなにーセクハラ?てゆうかー」なんてささやく人がいても不思議ではない。確かに当時僕の発言はここまでしかなかった。不完全のまま発言を終えてしまったのは僕の過失であったことは認める。だけどちょっと待ってくれ、と言いたい。実はこの発言には続きがあったのだ。いまさら言うのもなんだが、これは決して今考えついたわけではなく、理由を後付けした訳でもなく、当時から思っていたことである。ただあのときはこの不完全な発言により場内が騒がしかったのと、宗教による制約、ランニングの時間が差し迫っていた等の理由によりとても続けて発言できる状況ではなかったのである。僕としては裏に込められた僕の思いをみんなに感じとってもらいたかったね、うん。
その発言の続きというのはそんなに大げさなことではない、簡単なことである。要するに、何もわかっていないかわいらしい女の子を、汗や塵やほこりやアブにまみれ、蛾が飛び込んでいる飯を食べ、きったない仮設トイレを使い、20Kgものザックを背負うことをよしとしている世界に引きずり込むのはちょっと気がひけるんじゃないの、ということだったのである。そういう世界が待っているということはみんなだったら容易に想像できたはずだ。それなのにそんなことが待ってるとはまったく知らないまだ高校に入ったばかりのいたいけな女の子をだましてまで山岳部にいれてしまおうと言うのはとてもやっちゃあいけないことのように僕には思えたのである。
それでも山に登りたい、山岳部に入りたいという意志を持っている奇特な女の子だっている。そういった人たちに関しては僕はなにも言うつもりはない。どちらかってゆうと大歓迎である。がしかし、あの状況に関して言うのならば、彼女達は別の部活に入ろうか迷っていたし、軽い気持ちで間違って来てしまったということは一目でわかったはずだ。そんな子たちを本人達に意思決定のスキすら与えず、わーっはいはいはい、と山岳部にいれてしまうよりも、早めに山岳部の悲惨さをわからせてあげて、危うく道を踏み外す前に、僕が体を張ってテニスなりバドミントンなりのキラキラした青春の道を切り開いてあげる必要があったのだ。それに一度でも参加してしまうと辞めづらいし、ほかの部活にも入りづらくなってしまうではないか、という僕の優しい計らいだったのだ。
それを、「女の子、女の子」とわめく部員たちを制する為にやむなく「山岳部に女の子はいらん」という発言に至ってしまったという訳である。だからしてこの発言は、その内容自体がどうこう取りざたされるべきものではなく、その効果のみをねらったにすぎなかったのである。
これらをゆっくり説明する機会もなくついに今日に至ってしまったわけだが、僕の言いたかったことは大体こういう事である。よーくわかっていただけたかな。もうこれで大方の誤解は解けたように思う。この機会を設けてくれた小菅君に感謝したい。
それと最後に、最近女性部長が続いていると聞いたが誤解しないでね、ワタシハアナタノミカタデス。
高橋 悟(22回生)
1996(平成8)年9月発行 大全、個人原稿「山岳部員通信」より転載