編者 : Ramón Cacabelos1,2,3
著者:L. Fernández Novoa2,3, V. Lombardi2,3, Y. Kubota1,2,3, M. Takeda4
1EuroEspes Biomedical Research Center Institute for CNS Disorders, Bergondo, La Coruña, Spain
2Departments of Molecular Genetics, Genomics and Pharmacogenomics EBIOTEC, Bergondo, La Coruña, Spain
3EuroEspes Chair of Biotechnology & Genomics, Camilo José Cela University, Madrid, Spain
4Department of NeuroPsychiatry and Behavioral Proteomics, Osaka University School of Medicine, Osaka, Japan
アルツハイマー病(AD)は,突然変異,あるいは感受性遺伝子における多遺伝子性異常と関連した遺伝子の複合疾患である.潜在的には老化現象の進行と関連性があるものの,ADは独立した病型で,老化が多様な遺伝因子や他の病的状態(例:加齢による脳血管の悪化),環境因子(例:栄養)と関連し合って,脳の活動に悪影響を及ぼすものである.原因病理論においてADの遺伝学はすべてが解明されているわけではないが,環境因子とepigeneticな要因の両方もしくはいずれかがADの病理学と認知症の形質発現に関与することが示唆されている.ADのゲノミクス研究はまだ黎明期にあるが,遺伝疫学,多因子リスクファクター,遺伝子ネットワーク,および遺伝子調節された代謝経路に関連した発症メカニズムなど,疾患における新しい見解を理解する上で有用である.また,ADのゲノミクス研究は薬理ゲノミクス研究や予防などで新しい戦略を展開する上でも役立つ.機能ゲノミクス(Functional genomics),プロテオミクス,薬理ゲノミクス,高性能解析法,combinatorial chemistry,最新のbioinformaticsも,ADとそれにともなう複合疾患の薬物開発に大きく貢献している.
認知症における多因子性遺伝子障害は,ヒトゲノム中に広く分布している突然変異遺伝子座(APP,PS1,PS2,TAU)および,さまざまな感受性遺伝子座(APOE,A2M,AACT,LRP1,IL1A,TNF,ACE,BACE,BCHE,CST3,MTHFR,GSK3B,NOS3など)によるもので,遺伝的変異性・異質性を増幅させるミトコンドリアDNAの突然変異を引き起こし,早期の神経細胞死を促進するという通常の発病メカニズムにつながると考えられる.ADでは遺伝因子,異常タンパク質,もしくは異常な折り畳み構造のタンパク質の蓄積,プロトフィブリル形成,ユビキチン・プロテアソーム系機能障害,興奮毒性反応,酸化・窒素化ストレス,ミトコンドリア損傷,シナプス不全,異常な金属恒常性,樹状および軸索輸送の機能障害,シャペロン機能の障害など,さまざまな病因が集まり,早死や神経変性を引き起こす.環境因子やepigeneticな要因のほか,影響を受けた遺伝子や特定の遺伝子ネットワークの関与などによってさまざまな神経変性疾患が発症するが,そのメカニズムには共通点が認められる.いくつかの研究では,ADに潜在的に関与しているという遺伝子の多くも,追加研究では候補遺伝子として承認されないこともあり,方法論的問題や遺伝子の複雑さが誤った結果を導いていることが示唆される.ADの機能ゲノミクスに対する多角的なアプローチには,個人のゲノム情報を多遺伝子の遺伝子型に統合するもの(ハプロタイプ様モデル)や,遺伝子型と表現型の相互関係や遺伝子型に関連した薬理ゲノミクスの作用を研究するものなどがある.ADによる神経変性に関連した分子診断や病態生理学のメカニズムを理解する上で,機能ゲノミクスのADへの適用は適切な戦略となりうる.さらに,ADの薬理ゲノミクスは薬剤の有効性および安全性を高め,副作用および不必要な経費を減少させるなど,今後の薬物開発や治療法をより改善するのに寄与するであろう.